
実話シリーズの②ページ目です。
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【STEP5】 被害概況レポートの作成
ヒアリングと現地調査が終わったら、家に帰って、パソコンで漏水事故の発端(原因)・経緯・関係者の状況・問題点の整理・トラブル解決方針を取り纏めて、被害者にレポートを作成しました。その内容は、次の通りです。
いきなり、解決方法を見つけようと思っても正解には辿り着くことはあまりない。よくて、30点の回答です。
トラブル全体像を高い視点から俯瞰して、ゆっくり、事の発端、経緯、関係者の属性をつぶさに見ていきます。
そして、「真実は何か」を突き止めていきます。



関係者の整理
オーナー | ●(中国人・男性) |
管理会社 | ●株式会社 |
賃借人 | ホア・● |
保証会社 | ●株式会社 |
仲介人 | ●株式会社 |
賃貸物件 | 新橋●ビル |
賃料 | 月額240000円 |
賃貸面積 | 20坪(2F) |
坪単価 | 12000円(相場より安い) |
賃貸期間 | 3年 |
契約種別 | 普通借家契約 |
店舗名 | サロン・●●● |
経緯
●年●月●日 賃貸開始(サロン営業開始)
●年●月●日 2F天井より漏水発生
●年●月以降、次の通り
・営業に支障(毎月数十万円)が出る
・漏水工事、営業補償について反応なし
・テナント側は賃料全額を継続支払
・漏水事故の一次対応で自助努力も実施
(換気促進・消臭機器設置等)
・漏水後18か月間、オーナー側説明はない
関係者の特徴・分析
オーナー | ●(中国籍名) ・名前の調査で男性の可能性が高い ・過去の対応からテナント軽視・金銭しぶる傾向強い |
管理会社 | ●株式会社 ・ 社員数十名、平均年齢35歳 ・ ●年創業、不動産管理会社として大きい ・HP有り(更新されていてデザインは良い) ・立地や入居ビルは〇、売買中心だが管理にも注力 ・売上は右肩上がりだが従業員増えず、離職者増加中(※) ・一見、怪しさないが、担当者Xの悪質な態度を考慮すると、 社内ガバナンスが悪いか、担当者Xに大きな問題ありと考えられる 宅建免許番号 東京都知事(●)第●号 所属団体名 ● 公益社団法人 ● |
(※)社内状況チェックに転職会議を利用
契約書・民法をチェック
< 契約書・民法 >
・賃借人は賃料を支払う義務を負い、賃貸人は目的物を使用収益させる義務を負う(民法601条)
・賃貸人は賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う(民法606条、及び、本契約第●条(補修義務))
・賃貸人が一定期間以上必要な修繕を放置した場合、修繕義務違反すなわち契約違反(債務不履行)となり、賃借人は賃貸人に対して債務不履行による損害賠償として逸失利益等を請求できる(民法415条)
・一部滅失その他の理由で賃借人が貸室を使用できない場合で、かつ、賃借人に責任が無い場合は、使用出来なくなった範囲の割合に応じて賃料は減額される(本契約第●条(一部滅失等による賃料の減額))
< 原則 >
入居しているテナントビルの老朽化や設備工事でお店を臨時休業する場合、オーナー側に休業補償義務はない。修繕工事や設備交換工事は、ビルの品質を保つために必要で、その間の休業補償をしろとまではいえない。
ただし、通常使用できなかった期間の「家賃の減額請求」は可能。
< 逸失利益 >
漏水事故で営業できない、もしくは、お店にお客が来ないため売上が立たない場合に請求できる失った利益相当分を逸失利益といいます。これは状況によってオーナーに請求できます。
< その他の情報 >
水漏れなどによる損害はどのように補償される?
https://www.sbisonpo.co.jp/kasai/column/column11.html
火災保険で水漏れの補償を受けられる条件とは
https://hoken-kyokasho.com/fire-insurance-wet
漏水事故は多くの火災保険で補償されています
https://www.royal-co.net/column/emergency-measure/first-when-water-leaks/
被害者(賃借人)の整理ポイント
・漏水事故発生前・発生後の売上データ整理・領収書の提供(⇒逸失利益チェック)
・物損の写真・領収書、追加コスト(クリーニング費用等)の領収書の提供(⇒物損請求額チェック)
・オーナー側との交渉状況(何回?・交渉内容?・態度等)(⇒状況把握・慰謝料チェック)
・火災保険契約書の提供(⇒物損・営業補償等への保険適用可否チェック)
弁護士のオススメ
もしも、弁護士を選任するときは、次の弁護士をおすすめします。
「●法律事務所 ●弁護士」
<弁護士費用の料金体系>
弁護士費用の相場(目安)は以下のとおり。
項目 | 時期 | 相場 |
---|---|---|
着手金 | 依頼時 | 10万円~(内容・経済的利益額による) |
相談料 | 相談時 | 5000~1万円/1時間(初回無料の場合あり) |
報酬金 | 案件終了後 | (内容・経済的利益額による) |
手数料 | 契約による | 数万円~数十万円(依頼内容による) |
時間制 | 契約による | 5000円~3万円/1時間(依頼内容による) |
実費 | 案件終了後 | 交通費等の実費 |
日当 | 案件終了後 | 3~5万円/半日 5~10万円/1日(契約による) |
総括(まとめ)
・ 今後も整理を進め、実行プランを検討
・ オーナー請求が基本、対応しない場合、保険適用を検討
・ 状況に応じて、弁護士に依頼
以上
関係者の特徴と分析をしました。理由があります。
相手が、裏社会系(暴力団系・半グレ系)・大企業・個人(特に年齢や性格など重要)の属性で、相手の反応が変わってくるため、戦い方が変わります。裏社会系の場合は特に注意が必要です。
その反応・展開を予想して、プランを考えます。長年の経験で見当がつくようになります。
もちろん、プロの予想も100%は当たりません。それより重要なことは、相手の出方が予想外だった場合に、柔軟な対応・追加プランを打ち出せるかがポイントです。そのため、慌てないようにセカンドプランも考えておきます。



【STEP6】 追加ヒアリング・追加データの確認、資料再整理
追加ヒアリング(お姉さまの証言)
ホアさんとお店のスタッフに、追加ヒアリングをしました。一点、追加情報として、ホアさんのお姉さまが、スタッフで働いてることが分かりました。被害者の家族で重要な存在です。
お姉さまの顔とお話しする様子を見ると、痩せて明らかに病気とわかったので、「心労からですか?病院いってますか?」とヒアリングした結果、明らかに「今回の漏水事故で1年半もオーナー・管理会社から威圧を掛けられ、経営不安で賃料も払えないため外のお店に稼ぎに行くハメになり、心労が重なった」ということが分かりました。
そんなお姉さまに、「病院には行ってください。慰謝料を取れる可能性がありますが、請求しますか?」と確認すると、これまでに受けた精神的苦痛として請求したいとのことだったので、慰謝料を請求することにしました。
交通事故や不倫は比較的、慰謝料を取れる可能性は高く、相場がありますが、今回の漏水事故のようなケースは、慰謝料を受け取れる可能性は低いです。ですが、請求できるものは適切に請求します。ただし、過剰はダメです。



追加証拠(防犯カメラに映し出された担当者Xの暴言・威嚇・大声)
防犯カメラの映像や音声は、裁判所ではその証拠性を問われることもありますが、当事者間で争う場合は、重要な証拠になります。ホアさんには、会った日に「防犯カメラ・スマホで撮影・録音したデータは何でもいいから提供してください」とお願いしてました。それが、この段階で入手できました。



これまでの1年半で録画・録音されたネイルサロン内部での漏水状況・管理会社の酷い対応を目で見ることができました。
特に、担当者Xの暴言・威嚇・大声は酷いものでした。
被害者に迷惑を掛けているにもかかわらず、大声で、威嚇するように、




『何度、言わせりゃわかるんだ!さっきから何度も説明してるだろ、日本語が話せないんなら通訳でも呼べよ!』
『お前らここで寝泊まりしてるらしいが、契約書に店舗ビル内で宿泊禁止って書いてあるだろ!こういう店舗の貸し借りってのは当然書いてるんだよ!オーナーの漏水事故を責任追及したいんなら、お前らの契約違反が先だろ!』
『オーナーは漏水修繕工事のお金ないって言ってるじゃん。この前より漏水少なくなってきてるし、オーナーが工事しないって言ってるんだから、もう今のままで頑張るしかないんじゃない!』
『「対応が良くないからオーナーに会わせろ!?」何いってるの、オーナーには俺しか会えない仕組みになってるんだよ、日本のこと全然わかってないなー。直接連絡することはできないの!そんな時間あるならお店の仕事がんばった方がいいんじゃない。』
その動画と音声を聞けば聞くほど、酷い内容で、とても同じ不動産業界で仕事をしている人間と思えない・思いたくないという気持ちになりました。
まして、言葉が通じにくく、困っている外国人にこの言い方はない!
不動産オーナーと管理会社が一番に大切にすべきは、賃料を支払う入居者(テナント)です。
その人達に対して、「言葉遣いの横暴さ」「意味不明で不適切な説明」「連絡を無視する不誠実さ」あげくの果ての「脅し・威嚇」…しかも、契約書を見ると、「宿泊禁止」とはどこにも書いていない。書き忘れているのも、管理会社のミスだ。
「契約書を見てもいないのに、逆にテナントを責任追及してしまう無能さと暴言の数々」に、さすがの僕も怒り心頭になりそうでした(いや、なってたかな…)。
オーナー・管理会社の責任はいよいよ重いと判断しました。
そして、動かぬ証拠を握ったので、これで強い損害賠償請求書を書けると考えました。
これまでの被害状況の整理で、2点重要なことがわかりました。
1点目は、「担当者Xは、現場の状況を、オーナーと管理会社の上席には逐一、報告せず、例え、報告しても自分の都合が悪くなるような報告はしていない」という考えにいたりました。
つまり、オーナーと管理会社の上層部は、担当者Xから報告を受け、問題ないと思っているから1年6ヶ月もの長期間、漏水修繕工事もせずに放置されていたこと。
逆に言えば、オーナー・管理会社の上層部に、「今回の問題の実態・本質」と「担当者Xの横暴」を知らせれば、管理会社と担当者Xはオーナーから責められ、担当者Xは管理会社で糾弾されること。この考えに整理が付いた。
2点目は、本来であれば、漏水事故後1~2ヶ月以内に工事を実施していれば、オーナーが支払う損害賠償金も少なかったのに、担当者Xが長期間放置したため、損害賠償金が多額に膨れ上がったということ。
都合のよい報告を聞かされたオーナーも担当者Xの被害者です。
余談だが、もしも一流の不動産会社(例えば、三井不動産・三菱地所など)だったらどう対応するか!
彼らなら、今回のレベルの事故なら「事故発生後1~2日以内に今後のスケジュール見通しを伝え、1週間以内に漏水修繕工事のスケジュールを確定させて、1~2ヶ月以内には日本全国から職人を呼んでも工事を終わらせる!」というスタンスで取り組みます。迷惑を掛けたテナントに対して、そういうスピリットを持っています。
なぜなら、賃料を払ってくれるテナントだからという安っぽい話しではなく、彼らがお客様にとって最良の不動産サービスとは何かを本気で考えているからです。トップ企業にはそういう遺伝子を持った人材がたくさんいます。担当者Xに爪の垢をのませたいです!



【STEP7】 実行プラン提案
これまでのすべてを総合的に分析した上で、いよいよ具体的な実行プランを考えます。
■現状(まとめ)
・オーナーは全く話が通じないタイプの外国人、管理会社は大きい企業で、相手は不動産のプロで手強い
・被害者は個人で不動産経験や法律知識も無く、入居直後から漏水事故で経営難に陥っている弱い立場
・当初は賃借人の責任にし、原因がビル側と分かっても謝りもせず、管理会社は威嚇・暴言を言う始末
・被害者側は、経営難の中でも、賃料全額を支払っているが、オーナー側は契約上の義務を全く履行していない。オーナー側は被害者を軽視し、漏水工事は未実施、営業補償も無視
・ネイルサロン店の売上が少なく賃料が払えない月は、お姉さまと共に周辺の別のお店で働き、窮地を凌いた。その代償で2人とも体調を崩し、通院が必要な日々を送っている




1年半の間、一方的に、強いオーナー側が弱いテナントに被害を与え続けた。この状況を逆転する方法は…
■プラン
・相手が「最も怖い、嫌がること」をする、これが一番効果的
・今回のケースでは、①書面で請求されること、②弁護士やプロが出てくること
・今まで何も言い返せなかった被害者が、書面で損害賠償請求をするのは、一歩前進になる
・担当者Xが一番嫌がるのは、1年半に渡り自分勝手な報告内容にすり替え、横暴な態度で被害者に接し、自分の責で問題が長期化し、損害賠償額が10倍に増大していることをオーナーと管理会社の上層部に知られること
・これらを考慮した損害賠償請求書の書面を1ヶ月以内に発送する
・中国の所有者にも、国際郵便EMSで直接通知する
・損害賠償請求書を受け取ったオーナー・管理会社側は、被害者側に弁護士が付いたと考え、勝手に見えない弁護士を怖がりはじめ、被害者側に損害賠償金の減額交渉を仕掛けてくる
・そして、担当者Xはオーナー・管理会社の上層部から過去1年半の長期間にわたる横暴と漏水事故対応の虚を責められ、被害者に自分を許してもらえるように泣き落としを仕掛けてくると想定
■注意点
① オーナー・管理会社が全く応じない可能性もあること
② 裁判に発展する可能性があること(この場合、ホアさんは裁判に出席する可能性があること)
②について
仮に、オーナー側が裁判を起こしても、被害者側は裁判所に行く必要はあるが、弁護士を選任する必要は無く、自分だけ出廷して対応する「本人訴訟」という対応もある。実は日本における本人訴訟の割合は多く、簡易裁判所で約9割、地方裁判所で約6割が本人訴訟です(※)
■想定外の展開がでてきた場合の対応は以下の通り
① 弁護士(有料)に依頼する
② 法務局に賃料を供託する
③ 不動産各種協会団体、許認可団体、消費者生活センターにクレーム・陳情する(無料)
■経済産業省(中小企業庁)へのヒアリング(戦略提案の補強)
- 賃貸人は時間の経過と共に損害が拡大することを余り意識していない、賃借人とは逆
- だから、出来るだけ早く、賃借人より賃貸人に対して、状況を説明して、当人同士で、話し合うことが重要
- 弁護士に頼むと多額の費用が必要なため、まずは弁護士をたてずに、賃貸人に請求すること
- 素人が作成した請求書の場合は、各項目にいろいろと指摘を入れて来て無視されることも多い
- 最後は弁護士に依頼。双方弁護士に依頼した場合は、着地点を見出して解決に向かう
- しかし、争わなければ弁護士費用はかからない訳だし、解決したところで弁護士費用が高いと意味がない
- 弁護士に依頼する場合は、弁護士にも得意・不得意があるため、よく選んだ方が良い
以上



・ホアさんと話した条件で、弁護士依頼はせず、お金をかけずに進めることが条件だったので、弁護士には事前に確認できなかったが、念のために、経済産業省〔中小企業庁〕(※無料)に確認し、国の意見という第三者の目を借りた。結局、同じ見解だったが、被害者の安心材料となりました。
・余談だが、本来、不動産業界の許認可は国土交通省の専売特許だが、テナント問題(つまり街中の店舗ビルのいざこざ)は経済産業省が担当らしい。この点で両省間はいざこざがあるらしい。面白い。
ようやく方針も決まり、ホアさんから『このやり方で行きましょう!』とOKが出ました。
ここまで整理できれば、あとは、損害賠償請求書を作成するだけ!と思っていましたが、お姉さまのココロは違っていたようです。




続いて、下記リンクから『STEP8』をご覧ください!


